お祝いしよう

泣きなさい
私には関係ないわ
時が来たのよ
あんたは私につけを支払うのよ
泣いたらいい,泣いたらいい

それがあなたの罰
理由もないのに私と争った
私は祝うわ
あなたの苦しみやつらさを

あなたは
いつも手をさしのべていた私に
裏切りで報いたのだから

(ポルトガル語原詩に戻る)

<歌詞解説>  
(基礎知識 *動詞の活用について  *be動詞について   *人称代名詞について)

(注)これが紙上に連載したときの第1回目のものです。解説がその分長くてちょっとうざったいかもしれない。少し削ったのですが・・。
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タイトルのVou festejar[う゛ぉう ふぇすてじゃー]は,「お祝いしよう」と言う意味(詳細は後述)なのだが,じゃーめでたい曲なんだな,と思って結婚式とかで歌ってはとんでもないことになる(ポル語が分かる人はいなかろう,と実は結構そういう場で演奏して来ちゃったが)。曲想も明るそうなのに,この曲は歌詞をよくよく見るとなんとも,陰険とすら感じられるような内容なのだ。サンバの歌詞にはよくあるタイプなのだが,まあとにかく少しずつ見ていこう。

Chora
(しょーら)
・・・いきなり「泣きなさい!」である。歌を聴くとけっこう声も明るく朗らかに歌っているーーしかし,「泣け!」なのである。動詞chorar「泣く」の,命令の形。ちなみにブラジル音楽の1ジャンルである「ショーロ」はこの動詞の名詞化したもので,本来は「泣き」という意味。ギターや管楽器をすすり泣かせちゃうわけである。

Não vou ligar
(なぉん う゛ぉう りが-)
・・・・・ そして「私は知らないわ」と来たもんだ。Na~oは思いきり鼻に抜ける発音。意味は英語のnotである。vouは,英語のgoにあたる動詞"ir"の,「私」に対する現在の活用---ーちょっとまてよオイ。irとvouじゃぜんぜん違うじゃんか! そうなのである。この動詞は不規則動詞なのだが,不規則にも程があると言いたくなる。現在形で「私」に対してはvou,「あなた,彼etc」に対してはvaiであるが,過去形になるとこんどはそれぞれfui, foiとなりもう支離滅裂である。そしてまたこのハチャメチャな動詞は使用頻度もものすごく高いのだーーーしかし逆に言えば,しょっちゅう出てくるのでいやでも覚える。出てくるときは,英語のbe going toのように,未来を表す助動詞として使われることが多い。ここでもそうで,もうひとつの動詞ligar「関係,関連を持つ」を率いて「私は関係を持たないでしょう,持つつもりではない」ということになる。ところで「私」って語はどこにあるんだ? それは省略されているのですね。Euというのが「私」という意味の代名詞だが,主語はしばしば省略され,その代わりに動詞の活用の形によって判断するというわけである。まあそういうこともあるので,あきらめて,頻度の高い動詞の活用の一部は少しずつでも覚える気概をもとう!

Chegou a hora
(しぇごう あ おーら)
・・・・「時が来た」  Chegar「やってくる,到着する」という動詞の3人称過去。とにかく,-ouという語尾は「過去くさい」と思っておいて下さい。主語はここではa hora[あおーら]「時間,とき」である。ちょっとまって,主語が動詞のあとに来るの? そうなのである。けっこうポル語では,語順がいい加減である。まえでもあとでも「どっちでもいい!」のである(だから活用から主語を判断するのもますます重要なのですね)。
(★ところで,動詞chegarに似た言葉で,Chega[しぇが]というのがある。chega!と一言叫べば「もうたくさんだ!やめろ!」と言う意味。 chega de ~とすると「〜はもうたくさんだ」となる。ボサノバの有名曲にchega de saudade(邦題「思いあふれて」)というのがあるが,「思い焦がれるのはもうたくさん」という意味なのである。これももともとは動詞chegarと関係はあって,つまり「もうキテしまっている」ということなのだろう)。

Vais me pagar
[う゛ぁいす み ぱがー]
・・・・ 「あんたは私に支払うことになる」 vaisは前述したirの活用。(★vaiでなくvaisなのは,主語がvoce^ではなくtuであるーーつまり,より親しい,あるいは見下してるときの相手の代名詞であるから。この歌では相手は「おまえ,あんた,てめー」よばわりされているのだ)。意味も2と同じで,未来形を作る助動詞。meは「私に」pagar「支払う」

Pode chorar, pode chorar
[ぽぢ しょらー,ぽぢ しょらー]
・・・・怖いですね〜〜。「泣けばいい,泣けばいい」 pode(原形poder,ここでは命令形)は他の動詞の原形をしたがえて「〜できる」と能力を表す動詞。この語の英語の親戚が、"ポテンシャル"とか、それからそれから、impotentーーーつまり「インポ」ーーとかなのだ。受けを狙うとやや下品になるなあ。さて,「お祝いしよう」というタイトルのもとになんという恐ろしい内容が歌われているか,だんだん分かってきましたね。要するに「あんたが泣いているのを私は祝っちゃう」ということです。彼はどんな悪いことをしたのでしょう。

É o teu castigo
[え〜,う てう かすちーぐ]
・・・・「それがあんたの罰」 ああ,ますますコワイことになってきた。 e' は別に驚いているわけでなく,これまためちゃくちゃな変化をする不規則動詞serの3人称単数現在,英語なら「is」に相当する。つまり動詞serとはbe動詞のようなもので,基本的には「○○は××である」という意味を表す。主語はここでは省略されているが,こういうときは「それは」と訳せることが多い。「え」といえば「それはね」である。漠然と,前に述べた状況を指しているのだ。つまり,「今あんたが泣いているのはバチがあたったのよ,ざまーみろ」というわけである。teuは「あなたの」。castigoは「罰」

Brigou comigo sem ter porque
[ぶりごう こみーぐ せんてうぽうけー]
・・・「理由もなしにあなたは私と争った」 brigouはbrigar「争う,ケンカする」の過去形。ほら,-ouは「過去臭い」と前にも言ったよね。主語は「あなた」である。comigoは「私と」。そもそもは,comが「〜と」(英語のwith)という意味なのだが,「私と」と言う場合は「mi」と合わさって特殊化しているのである。 さて,comがwithなら,semは「without」だ。「〜なしに」と言う意味。ここではあとに動詞ter「持つ(=have)」があるので「持つことなく」 。porque^[ぽうけ]はここでは「理由」と言う意味の名詞である。sem ter porqueで「理由も持たず」となる。しかし普段はporqueとくれば「なぜならば〜である」という接続詞(because)であることのほうが多い。そしてPor que?と分かち書きしてクエスチョンマークを付ければ「なぜ,どうして,なんのために?」という疑問詞になる。ちなみに,ブラジル音楽のライブなどでアンコールを求めるとき,手拍子とともに「por que parou, parou por que?」[ぽうけぱろう,ぱろうぽうけ!]と言うのが流行っているが,これは「なぜ止める?止めるのはなぜ?(=止めるな!)」(parar=止める/止まる)と言っているわけである。

eu vou festejar, vou festejar
(えう う゛ぉう ふぇすちじゃー う゛ぉう ふぇすちじゃー) 
・・・「私はあんたの苦しみ,あんたの悩みを祝っちゃうよ」 きたきた〜〜って感じ。もうこう言われちゃ救いようがないですな。vouは2行目のna^o vou ligarで説明したように,未来形を作る動詞irの活用である。festijar「祝う」はもちろん,フェスティバルとかの親戚の語。

o teu sofrer, o teu penar
(う てう そふれー う てう ぺなー)
何を祝うかというと,コワいことに,あんたのsofrerやpenarだというのですね。sofrerもpenarも「苦しむ」という意味の動詞なのだが,動詞はすべて,原形で「〜すること」という意味の名詞として使われることもあるのだ(この場合,男性名詞になる)。悩み苦しむ人は多く,そしてそれは歌の主題として好まれるので,sofrerは歌詞では最頻出単語のひとつ。覚えておこう。

Você pagou com traição a quem sempre lhe deu a mão
(う゛ぉせー ぱごう こん とらいさぅん あ きん せんぷりぇ でう あ まぉん)
・・・「いつも手を差し伸べていた人に,あなたは裏切りで報いた」
pagou---お,-ouだから過去だろう。そのとおり。だいぶ慣れてきましたね。pagarは4行目で出てきた「支払う」ですね。comは英語のwith,ここでは「〜で支払った」ってことになる。何で支払ったかというと,trai溝o 「裏切り,浮気」。「恩を仇で返した」ということですな。aは英語のto「〜へ」だ。 そのあとの部分はややややこしい。やややや。やや,ややこしいのである。quemは関係代名詞というやつ(英語のwho)。後ろの文を受けて「〜した人,〜する人,〜な人」。deuは動詞dar「与える」の過去。そう,-euというのも過去臭いやつなんだよ。 a ma~o は「手」。この語はマニュアル=手動の,とかマニファクチュア=手工業,とかの親戚ですね。sempreは「いつも」。英語なら分かると言う人のためにこの部分の英訳をつけておくとYou paid with treason to who(m) always gave you the hand, となりますね。

というわけでこの歌は,必ずしも恋愛関係の破綻ではないのかもしれないが,とにかく,結婚式で歌ってはとってもまずいようなウタだったのである。タイトルに騙されてはいけない。もともとベッチ・カルヴァーリョが歌っているが,どうも彼女の歌にはこういう傾向の歌が多い。ただ,歌いっぷりはあくまでカラッと明るく,痛みや悲しみを秘めつつも前向きな態度なのだ,とも思える。


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