Vol.5 アレゴリア(装飾山車)作り

Vol.5 アレゴリア(装飾山車)作り/基礎知識5 浅草サンバカーニバル、とは?

  いよいよ,私たちにとってのメーンエベント,「浅草サンバカーニバル」が迫ってきた。この時期,サンバチームはなにしろ忙しい。練習がラストスパートであるだけでなく,ほとんど毎週末,どこかしらのお祭りに呼ばれて,そのパレードに出演もしている(これが大切な資金源になる)。そしてさらにそこで稼いだ資金を投じて,浅草のための衣装や「アレゴリア」と呼ばれる装飾山車の制作をしなければならない。すべて自分たちの手でこなすのである(外注したら破産する!)。浅草サンバカーニバルとは?アレゴリアって?という話は下の欄を参照してほしい。

  そんなわけで,6月頃からサンビスタ(サンバをやる人)たちの生活からプライベートな週末は消える。パレードなどのイベント出演・練習,そして「制作作業」に,すべての土日祝日は費やされるのである。

  制作作業の中でもとりわけ労力を要するのが,装飾山車「アレゴリア」作りだ。トップリーグに所属する要件にアレゴリアを出すということがあり,大型チームはどこも,凝りに凝ったアレゴリアを競い合う。

 1992年,まだ創立間もないわがチームは,浅草参加2年目にして健気にも?アレゴリアを出している。創立して1年たったので「誕生日」がテーマだったその年,アレゴリアのデザインは「ケーキ」だった。今から考えれば笑ってしまうほどのちゃちなもの。トラックの荷台に,円盤状の木の台を作って白い布を巻き付けただけである。プラスチックで出来た,高さ25センチぐらいのイチゴの形の飾りを浅草橋で見つけてきて,それをあしらった。お面のように半分しかないイチゴで,それを「ケーキ」の上に「寝かせ」れば半分ですむが,二つを合わせて立体にして「立たせる」には倍必要になる。それを立たせるか寝かせるかで大論争になった。見栄え優先か予算優先か,である…が,所詮1コ250円ぐらいのものだ(しかも全部で10ケぐらい)。それほどビンボーだったのである(結局立たせた)。


そもそもろくに写真も残っていないこの年の「ケーキ」
これじゃよく分からないけど、ま、こんなもんで。結局立たせた
イチゴもちょっとだけ写ってます。で、この人物たちは、誰
かな〜〜。 (この年のケーキのもっといい写真募集中!)

 


  1995年には,「トロピカル・パラダイス」がテーマ。昔はテーマを決めるのも相当にいい加減だったのである。なにかきれいげなモチーフがたくさん出せればいいや,てなノリ。トロピカル・パラダイスには蝶や花や鳥さんがたくさん!てなわけで,アレゴリアも巨大な極楽鳥,のはず,だった。この年から頭角を現した,わがチームの現・美術監督が気合いを入れて作ったアレゴリアの小型模型はかっこよかった。大きく羽を広げた華やかで優雅な鳥の姿。ところが,模型はあっても,設計図はなかった。狭い作業場で,目分量?で頭と羽根を別々に作り,浅草前日に浅草寺境内で合体! 感動の瞬間!

・・が・・「あら?」。

  できあがった極楽鳥は,なんだか「ギャグ」っぽいのである。頭がやたら大きく,羽根が小さい・・。おまけに,組み立て作業をして初めて分かったのだが,アレゴリアには規定の幅の制限があり,計画通りに羽根を広げるとはみだしてしまう。そこで計画よりも羽根を立て気味に取り付けなければならなかった。その結果,優雅と言うにはほど遠い,チョコボールのキャラのような鳥になってしまった。我々は苦笑しながら,そのトリを「ピヨちゃん」と呼んだのであるが,そこで初めて(^_^;)「設計図が必要だ!」ということに思い至ったのである。

 

読売新聞に載ったピヨちゃんと、偶然同じポーズのダンサーたち

  そこで翌年は綿密に設計図が作られた。テーマは「黄金伝説」。キラキラピカピカしていればいいのだ!という思想であった,いや,まじで。一応,太陽の王国・インカの王国の黄金伝説を扱う,というタテマエはあったのだが。アレゴリアは黄金のピラミッド。これは実に見栄えがした。そしてこの年,創立6年目にして,私たちは大躍進の準優勝を果たしたのである。文字通り「黄金時代」が始まった。

  そして今でもメンバーの間で語りぐさになっている97年のシマウマ・アレゴリアが登場する。その年のテーマは「アフリカ」で,アレゴリアには,リアルサイズのシマウマ2頭の像をあしらおうではないかということになった。廃材の発泡スチロールから,美術系大学出身のメンバーが中心になって,リアルなシマウマを彫刻していく。狭い作業場なので,頭や胴体,足などをすべて分割して手分けしての作業になる。4月頃から,練習以外の週末をすべてつぶしての作業。日を追ってシマウマはリアルになっていく。
  そして浅草の前日。浅草寺境内で土台の組み立て作業をやっているところに,トラックに乗せられた2頭のシマウマが運ばれてきた。すでに組み上げられて,まさに本物と見まごうばかりのシマウマの勇姿! それを見たメンバー一同,思わず感涙にむせんでしまったのである。
   その年,優勝は残念ながら逃したものの,シマウマの乗ったアレゴリアは日系ブラジル人向けの新聞でも,優勝チームのそれを押しのけてデカデカと1面を飾った。

シマウマ搬入中

新聞の1面に載った写真


  とあるメンバーと,パレードを見学していたそのお母さんとの会話。
「おまえのチームなんか優勝できるわけないよ,あんなすごい山車を出すチームがあるんだもの。シマウマが乗っていたよ!」
「それが,うちのチームのだよ・・・・」

  長くなりすぎた。その後のことはまたの機会に譲るが,そんなこんなで私たちは10年以上ずっと,こんなふうに試行錯誤しながらアレゴリアや衣装を手作りし続けてきたのだった。長い間にわたってチーム同志が競い合ってきたので,今やどこのチームも一昔前では考えられないほど,本格的な凝りに凝ったアレゴリアを出すようになっている。制作の負担は(労力も資金も)かなりのものではある。一部のメンバーだけではなく,何ヶ月もかけてみんなが総出で作るのである。
大変ではあるが,ワイワイとおしゃべりしながらの作業をしていると,なんだか子供に返ったような気がする。こんなふうに楽しく「工作」しながら,何か大きなものを作り上げる,なんて大人になってからそうそう味わえるものだろうか。中学や高校の時の文化祭や体育祭に近いノリ,いや「そのもの」と言ってもいい。
言ってしまえば,「くだらないことにいい年こいて夢中になっている」図式そのものである。しかし,以前にも書いたが「それのどこが悪い?」という気分である。それどころか,大人になっても「くだらないことに夢中になっている」連中の仲間であれることを,この上なく幸せに,誇りに思うのである。

2008年時点での追記:
かつての「ケーキのイチゴ立たせるか寝かせるか論争」から15年経った2007年、私たちはまたもイチゴの乗ったケーキを作った。でも今回は、とある工夫により、そもそもイチゴにさしたるお金はかからず、おかげで、こ〜んなにたくさん、美味しそうな巨大イチゴが!


1992年のとは笑っちゃうほど違うでしょ

 

 Vol.5  浅草サンバカーニバルとは?

  浅草サンバカーニバルは,1981年に始まり,今年(2008年時点)で28回目を迎える。観光的に凋落しつつあった台東区を再び活性化しようと組織された「下町ライブ計画」の一環として,稀代の名喜劇俳優,故伴淳三郎が発案したのだというが,いまやすっかり定着し,当日は天気が良ければ公称50万人という見物客が沿道にひしめきあう。
   8月の末の土曜日,大小取り混ぜて30前後のチームが出場する。パレードはコンテストになっており,台東区長をはじめ,台東区やブラジルにゆかりのある審査員が審査して優勝チームを決める。
  良く覚えていないのだが、十何回目からか、3リーグ制が採用された。リーグの内訳は未だにやや流動的であるが,現時点では,大型の本格的チームのみが出場するトップリーグと,規模や構成の点でそこに参加できないがサンバをやるチームのためのリーグ,ジャズダンスやサルサなどサンバ以外の出し物で参加するエンターテインメント・リーグがある。
トップリーグとなると,優勝賞金は200万円と大型だが,優勝を狙うだけのクオリティのパレードを準備するには,200万円ではとてもきかない資金が必要になる。
  毎年,各チームは独自の「テーマ」を設定する。このテーマ自体のアピール力や,パフォーマンスや装飾がテーマに合致しているか,ということも審査の対象になるのである。よって,毎年,テーマに沿った衣装も新たに制作しなければならない。
また,トップリーグに出場するチームの要件として,装飾山車「アレゴリア」を出すということがある。義務ではないが,出さなければ優勝はとても狙えない。

  サンバカーニバルの初期の頃には,ブラジルから招待したというふれこみのサンバチーム以外は,おそらくサンバのなんたるかはよく分かっていない人々が,若干気合いを入れた仮装行列のような気分で参加していたかもしれないが,当初から参加していた学生のチーム「ウニアン」,浅草仲見世の地元チーム「バルバロス」を中心として,参加者たちはどんどん本格的サンバにのめり込み,研究熱心な日本人の性格の故にか?カーニバルも,ブラジルのリオのそれに近づいていくようになった。いや,そうはいっても,規模的には笑ってしまうほどの雲泥の差,ではある。なにしろかたや1チームが3〜5000人,という規模なのに対し,こちとらは,最大規模のチームでも300人ぐらいだ。10分の1以下である。開催期間も,3日間まるまるつぎ込み,国を挙げて祭りに酔う本場に比べ,たった数時間だけ,限られたパレードコースのみ,しかも,最後尾にパレードするチームのお尻には警官がくっついて警備しながらも,パレードコースの警備が解かれてその後ろはもう「日常」になってしまう,というありさま。比べるのもおこがましいのであるが,参加チームの「こころざし」だけは,リオに負けない。

  現在トップリーグに所属するチーム(エスコーラ)は,最近,結束して「エスコーラ協会」を作り,祭りの実行委員会に様々な要望を出して交渉に当たっている。審査項目をできるだけ本格的なものにし,サンバのなんたるかをきちんと分かっている人間に審査員をやってもらう,という要望も出し,一昨年ぐらいからそれが実現している。
  審査項目は,テーマ設定とその表現力・テーマ曲とその演奏・全体の調和・躍動感・装飾という5項目に分かれている(リオではもっと細かく,10項目ある)。これを見ても分かるように,「ただ華やかなだけ」では足りないのである。これらの審査項目のそれぞれを十分に満たすために,本番が終わると,もうすぐに次の年の計画が検討されはじめ,何度も話し合いが重ねられて,テーマやパレードデザイン,そして制作計画や,練習計画が練り上げられる。それだけに,見物する方にも「見がい」のあるイベントと思う。

   暑い盛りの午後2時にパレードははじまる。トップリーグの登場は4時半ごろになるので,最初から頑張って見ていたお客さんはそのころになると疲れ果ててしまうかもしれないが,本格的「サンバ」の醍醐味は最後の方のお楽しみ,なので,もうひといき頑張って欲しい(出場する側からすると,本当は,バカ暑い中,ただ「見物する」なんて信じられない!という気分ではある。まさに「同じアホなら踊らにゃソンソン」だ)。

  現時点でトップリーグに所属しているチームは11ある(2008年現在)。
いろいろな大学のラテン音楽同好会が合同して作る「ウニアン」という学生チーム。
「浅草仲見世バルバロス」という「地元」チーム(ただし実際のメンバーには浅草の住人はほとんどいない。誰でも参加できるのである)。
たいがいの年はこの2つのチームが優勝争いをしている。
私たちリベルダージは上記2つに比べるとチームの歴史が半分しかないのだが、準優勝は何度かしている。しかし優勝はいまだ「悲願」である。
他に,横浜を拠点にしている「サウージ」というチーム,ブラジル人ミュージシャンが率いる「クルゼイロ・ド・スゥル」というチームがある。いずれも私たちより古くからあるチームだ。
そして,「ウルバナ」という名古屋のチーム。名物男ゲーリー杉田氏の経営する同名のブラジル料理店の常連客で作ったチームだが,名古屋からアレゴリアをひっさげて東京にやってくるのだから,たいしたものである。
埼玉を拠点としている「アレグリア」というチームも、私たちよりもさらに歴史が短いが、最近は上位争いに加わっている。
ここ数年で、トップリーグはその方針に従ってチーム数を増やし、この他に、「フェスタンサ・フェステイロ」「ヴェルメーリョ イ ブランコ」 「アミーゴス
カリエンテス」「ICU ラムズ」が加わって11チームとなった。
 サッカーのJリーグとJ2のように、上位リーグの下位チームと下位リーグの上位チームが入れ替わるシステムも確立している。

 人数も多く,若く元気な(おまけに夏休みまである!)学生主体の「ウニアン」にはアドバンテージがあるが,他のチームも,どこが優勝してもおかしくない実力派揃い。本文にも書いたが,「いい年こいて」夢中で頑張っている「大人」たちとして,学生には負けたくない!のが本音ではある。

  最後にもうひとつ。 本場のリオでは,カーニバルの最中に,沿道のお客さんたちが,パレードしているチームのそれぞれの「テーマソング」を一緒に大合唱する,という。それができるのは,カーニバル前に各チームのテーマソング(エンヘードと呼ばれる)を収録したCDが市販されるからである。そしてなんと,数年前から浅草でも,トップリーグのエンヘードをCD化して市販し始めた。毎年7月には売り出される。浅草でもお客さんが出場チームのテーマソングを一緒に愉しむことは可能なのである。歌はポルトガル語だが(サンバのリズムが,どうしても日本語では完全に出せないのだ)対訳がついているので,内容がよく分かる。内容を知ってパレードを見ると,おもしろさ倍増!ですぞ。ご希望の方は下記にお問い合わせを。
マルメラアダ(ブラジル輸入楽器・CD店) 03-3919-8933 marmelo@highway.ne.jp

浅草サンバカーニバル公式ページ

2007の浅草サンバカーニバルでのリベルダージ

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