基礎知識

G.R.E.S. LIBERDADE—ブラジルのカーニバル:サンバカーニバル—

サンバカーニバル基礎知識

80分間にかける想い

華やかに見えるサンバ・カーニバルは、実際にはエスコーラ(サンバチーム)の伝統と威信をかけた戦いの場。このコーナーで、そんなサンバカーニバルの”魅力”について少しでも知っていただけたら、と思います。

パレードはコンテスト?!

リオに代表されるサンバのカーニバルについて、「半裸の男女が好き勝手に踊り狂ってるお祭り騒ぎ」といったイメージを抱いている人は多いのではないかと思います。たしかに、日本で放映されるニュースなどでしかサンバカーニバルをご存知ない方にとっては無理もない話です。
しかし、サンバカーニバルとは決してそのようなものではありません。あまり日本では知られていませんが、サンバカーニバルはパレードコンテストです。それはそれは真剣な、勝負の場なのです。

サンバチームと、コンテストの仕組み

コンテストというからには、互いに競い合うグループがあります。また、数時間にわたって華やかに繰り広げられるパレードは、一見するとだらだらと区切りなく続いているようですが実際には、幾つかのグループが順番にパレードをしています。これが“Escola de Samba”という団体です。
Escola de Sambaの読みは「エスコーラ・ジ・サンバ」、直訳すると「サンバ学校」といった意味になります。日本では「サンバチーム」という呼称のほうが馴染みがありますね。

サンバパレードのコンテストは、サッカーのように前年度迄の成績ごとにリーグがわかれていて、サンバチームはそれぞれどこかのリーグに属しています。上のリーグに上がるためには準優勝以上の成績を勝ち取るしかありません。逆に、リーグ最下位1〜2チームは、上位に上がってきたチームと入れ替わりに下のリーグに落ちることになります。
その階層構造の最高位に位置するのが「Grupo Especial(グルポ・エスペシアウ=「スペシャル・グループ」の意味)」とよばれるリーグで、以下、「Grupo A」→「Grupo B」→「Grupo C」…と続きます。
日本にいると、Grupo Especial以外の情報はほとんど入手することができませんが、下位リーグのパレードも、豪華な上位リーグのパレードとはまた違った趣があり、和やかでとても楽しいものです。

パレードのこと

サンバのパレードには”筋書き”があります。この”筋書き”のことを「Enredo(エンヘード)」といいます。日本では「テーマ」という言い方で呼びならわしています。
パレードには、テーマに沿って作曲された音楽(テーマ曲)があり、テーマに合った衣装を着た人物がいて、セットのような装飾物があります。それらが合わさってひとつの大きなテーマを表現する様は、さながら路上に繰り広げられる壮大なオペラのようです。

パレードは、毎年新しいテーマを基に作られますので、パレードのテーマ曲もそれに合わせて毎年作曲されます。また、衣装や装飾物も使いまわしをすることはなく1回限りのものです。
それだけの準備には時間がかかりますので、サンバチームの人々は、パレードの準備に殆どまるまる1年間をかけます。今年のパレードが終わったらすぐ、来年のことを考え始めます。
そうしてつくったパレードの完成度をコンテスト形式で競うのがカーニバルなわけですが、最上位リーグのエスコーラともなると、参加人数は数千人になります。ひとりの衣装に1万円かかったとしても数千万円、しかし実際にはもっとお金がかかっていますし、衣装以外の装飾物もありますから、何億とか、そういう単位の話になります。
しかもそのコンテストは約80分の間に全てが決してしまいます。各チームがパレードできるのはただの1度限りです。それぞれのエスコーラが、1年分の時間と労力を資金をかけた努力の結果を、たった80分で示さなければならないのです。

1年間という時間をかけて準備し、そんな大金をつぎ込み、大勢の人間がかかわり、でも一夜にしてすべて夢と消えてしまう…。そんな刹那的なところも、サンバパレードの美しさ、”魅力”のひとつかもしれません。

構成要素

「サンバのパレード」というと、ビキニに羽根をつけたダンサーのイメージ?
でも実際には、こんなにもたくさんの要素から出来ています。

監督・作家・名誉職など
Carnavalesco
カルナバレスコ
パレードの構成、配置、衣装を担当します。舞台監督であり演出家であり、台本作家をも兼ねる存在です。
Diretoria de Harmonia
ジレトーリア・ジ・
アルモニア
ハーモニーの総監督。もとはコーラスとパーカッションのリズムを総括する存在でしたが、現在はカーニバルハーモニーの総監督を兼任している事が多いです。また、年間スケジュールを決める重要な責任を持っています。
Mestre da Bateria
メストレ・ダ・バテリア
打楽器部門の総監督。300人ほどからなる打楽器隊の指導および構成と調整を行います。Diretor da Bateria(ジレトール・ダ・バテリア)
数人いて、メストレの補佐をします。

Compositor
コンポジトール
作曲家
各エスコーラに20?30名ほどいます。テーマに従い各々がテーマ曲を作り、コンテストによって、その年のテーマ曲が選出さます。
Velha Guarda
ヴェーリャ・グァルダ
そのエスコーラに貢献してきた人々、功労者です。年配の人がほとんどで、白やチームカラーのスーツ姿でパレードの最後を歩いたり山車に乗ったりしています。
音楽
Bateria
バテリア
様々な打楽器で構成されています。演奏を受け持ち、エスコーラ(サンバチーム)の”心臓”と称されるポジションです。
Puxador, Cantora
Cavaquinho, Viola

歌手と弦楽器

パレードの際に演奏するのは”Samba de Enredo”という、カーニバルのサンバです。
Samba de Enredoとは「Enredo(エンヘード)のサンバ」、エンヘードとはその年のそのチームのパレードテーマ/あらすじ(筋)のことなので、テーマのサンバ、テーマ曲と理解していただければいいと思います。
歌手はテーマ曲を歌い、観客にメッセージを伝えます。メイン歌手のことを特にプシャドール(Puxador)といい、歌いながら掛け声を入れ、パレードの士気を鼓舞します。
4本の弦が張られたカヴァキーニョというブラジル特有の弦楽器やギターも、ともに演奏を盛り上げます。
出演者
Comissao de Frente
コミサン・ヂ・フレンチ
直訳は、”先頭委員”。ページェントの司会役でもあり、進行を促すと同時に審査員や観客に自分達のエスコーラを印象付け、優勝へのお膳立てをする役割です。
高度な振付けの熟練とともに品位が要求されます。
Porta-Bandeira
e Mestre-Sala

ポルタ・バンデイラ
と メストリ・サラ

エスコーラ(チーム)の象徴である旗を持つ、たいへんに名誉ある重要なポジションです。2人で1組で、ポルタ・バンデイラが女性、メストリ・サラが男性。
踊りはもちろんですが、品性・演技力・優雅さ・息の合ったコンビネーションなど、すべてに高度なものが求められます。宮廷風の豪華な衣装を着ていて、その豪華さにはチームの力を誇示する意味もあるので各エスコーラとも贅を尽くしています。その重さたるや女性の衣装は10kgを軽く超えることも。
また、子供だけの編成をmirims(ミリンズ=小さい)といいます。
Ala das Baianas
アーラ・ダス・バイアーナス
サンバを創ったアフリカ系ブラジル人のルーツであるブラジルのバイーア地方に敬意を表して、この名がついています。
エスコーラの中で貢献のあった女性ばかりで構成され、大変名誉あるポジションとされます。
スカートを大きく膨らませたドレスとグルグルと回る動きが特徴です。このドレスは、バイーアの地方色を濃く出した衣装でもあります。
また、規定人数に満たなかったり、男性が混じっていたりすると減点対象となります。
Ala das Criancas
ア?ラ・ダス・クリアンサス
子供だけで構成されたアーラ。
未来のエスコーラを支える重要なポジションとして、非常に大切にされています。
Rainha da Bateria
ハイーニャ・ダ・バテリア
直訳すると”バテリアの女王”ですが、バテリアメンバーの中から選ばれるわけではありません。ダンサーの中から選ばれます。また、ポルタバンデイラやメストリサラなどとともに、名誉なポジションとされています。
バテリアの真ん前で踊り、そのポジションには他に、マドリーニャ・ダ・バテリア、プリンセーザ・ダ・バテリアなどがあり、こちらも同じく名誉なこととされます。
※ハイーニャ=女王
マドリーニャ=宗教的な意味で代母、女後援者の意
プリンセーザ=お姫様
Passista
パシスタ
「サンバのダンサー」というと、露出度の高い衣装を着て羽根を背負った姿のイメージが強いですよね。しかし実際には、パレード全体で1000人以上いる踊り手の中で、あの姿のダンサーはほんの少人数。それがパシスタです。
また、パレードの中で唯一、その年のテーマにかかわりなくサンバそのものを表現する存在です。(※アーラは集団でテーマを表現する)
Ala
アーラ
衣装と動きでその年のテーマを表現します。集団美です。
一糸乱れぬ動きで観客を魅了する高度な振りが付けられたアーラがあれば、振付のない(観光客でも衣装を買えば参加できる)アーラもあります。
Malabarista
マラバリスタ
主に男性ダンサーによるポジションです。
パンデイロという、タンバリンに似たブラジル特有の打楽器を使った曲芸的な演技で観客を楽しませてくれます。
装飾物
Alegoria
アレゴリア
テーマはいくつかの章にわかれて表現されますが、それぞれの章のクライマックスを飾るのがアレゴリアです。
アレゴリアとは、日本語だと”山車”が一番近いでしょう。装飾を施した山車を、車で引いたり人力で押したりします。
ブラジルでは、パレードの最初に登場する、一番派手なアレゴリアのことをアブリ・アーラといい、各エスコーラとも一番ちからを入れ、たくさんお金をかけ、装飾や仕掛けに凝ります。
また、アレゴリアに乗っている人のうち、メインの人を”ジスタキ(=目立つこと)”、その他の人を”コンポジソン”といいます。
Fantasia
ファンタジア
衣装。綺麗で豪華でありさえすれば良いなどというものではありません。衣装のひとつひとつも、テーマを表現するための手段です。よって、そのテーマによって、コミカルな衣装、恐ろしげな衣装、など様々なものが出てきます。