Vol.3 ゆりかごから墓場まで

Vol.3 ゆりかごから墓場まで/基礎知識3 そもそもカーニバルって?

広報・インフォメーション担当の私の所には、入会希望者の問い合わせがたくさんくる。その中でしばしば聞くのが
「私は30代なんですけど、大丈夫でしょうか?」
というセリフ。歳を食いすぎているかと心配しているのである。私は答える。
「大丈夫どころか、むしろ若いくらいですよ」
年齢はヒミツの人もいるので統計を取ったことはないが、平均年齢はおそらく30代・・もしかすると35歳ぐらいではないかと思う。いやもっと上かも。20代の方がおそらく少ない。30代が目立ち、私も含め40代50代も多くなってきたし、60代以上もいる。

テレビ番組の取材打診も多いのだが、先日は「いろいろなところで活躍する若者をとりあげる番組」の取材依頼があり、サンバに打ち込んでいる10代の若者を取材したいという。しかし困ったことに、10代がいないのである。サンバのようなエネルギッシュな感じのことに「賭けている」のは若者に違いないという思いこみが先方にはあるようなのだが、学生のチームを除けば、実はどこのサンバチームにもあまり若い人は多くない。
30代40代50代の、いわば社会の重鎮的年代の人間が夢中になってやっているのである。 (以前、私自身がダンサーをやっているときに新聞の取材を受けたことがある。当時も私はとっくに三十路であったのに、私のセリフとして編集されたコメントの後には「由美子さん(25)」と書いてあってみんなに笑われてしまった。私がサバ読んだわけじゃないのにぃ!向こうが勝手に年齢を決めたのである。サンバダンサーと言ったらそういう年齢じゃないと世間が納得しないんだろうか…)

「まだサンバやってるんですか?」
と、私の仕事関係のある御仁が、呆れたように言う。ムカツク。「まだ」とはなんじゃ! まるで「いい歳こいて馬鹿なことやってる」と言わんばかりだ−−いや、実際に彼はそう思っているのだ。
「やってますよ。ライフワークなんですから」
「ライフワークねえ・・」
と先方はあくまで冷笑モード。 立派にライフワークたり得るほど、サンバの世界は奥が深いのだ!と私は声を大にして言いたい。

しかし、仮に単なる「馬鹿なこと」であったとしても、だ。それをいい歳こいてやっていて、何が悪い!とも言いたい。さまざまな背景を持つ老若男女が純粋に「サンバが好きだ」という気持で集まった集団。利益を追求するわけでもなく、厳しい上下関係もなく、いつも笑いあっていて、素直になれる。そして、ひとつの目標に向かって力を合わせてゆき、カーニバルの日には達成感や充実感を味わう・・・「いい歳した大人」にとって、こんな場が他にあるだろうか。

 でも、「いい歳した女性」が「あんな衣装」(つまり、あの露出度の高い羽根羽根の衣装)を着て踊るなんて信じられない!と言う人もあろう。 まあ確かに、寄る年波は多少なりとも残酷で、「あんな衣装」が映える時期とそうでない時期(^_^;)というのもある(個人差は多々あるが)。しかし、サンバは「あんな衣装」ばかりではないのだ。アーラ・ヂ・バイアーナと言って、サンバの発祥の地であるバイーア地方の女性が着る民族衣装で踊るパートがある。お姫様の衣装のように膨らんだ長いスカートで優雅に踊るのである。本場のブラジルでも、このパートはベテランの(つまり年配の)女性たちが担当することになっている。名誉ある、尊敬されるパートである。わがリベルダージにもちゃんとそのパートがあり、(若い人も多いが)40代50代のオバさまたちも、華やかな衣装に身を包んで誇らしげに踊る。パレードでの彼女たちの笑顔は輝いている。

「チームで養老院も作ろう」
なんて冗談にも少しは本気が混じっている。
「自分が死んだときは葬式でサンバやって送って欲しいな」
「ん、じゃー『サンバ葬』サービスを登録制でやるか」
「見積もりも付けてね。『その予算だとダンサーは2人しかおつけできませんねえ』とかいって」
なんて話まで出る。また、メンバー間で結婚するカップルも多い。 メンバーに母親や父親が俄然ふえてきて、練習会場にあたりまえのように幼児や子供がうろちょろしている。サンバがあたりまえの環境で育った子供たちの将来が楽しみでもある。サンバチームが「ゆりかごから墓場まで」の一大コミュニティとなる日も間近なのである(?!)

Vol.3 そもそもカーニバルとは?

カーニバルというのはそもそも、日本語に訳せば「謝肉祭」。キリスト教(カトリック)の行事で、「断食」に入る前に、食物となってくれる「肉」に感謝を表してお祭りをするということが起源らしい。カーニバルが終わると、40日間断食しなければならない・・・はずだが、そういうことがちゃんと行われている気配はあまりない(^_^;)。断食も2日ぐらいならやる人もいるらしいが・・。でもまあそのあたりはとりあえずおいておいて、なにはともあれ、この期間(旧暦にのっとっているので、年によって違う)「肉が食べられてありがたいよお」と言いながら?大騒ぎするのはブラジルに限らず、世界のあちこちで行われていることなのである。

それがブラジルでは、「サンバ」カーニバルということになり、とりわけリオ・デ・ジャネイロのものは世界的に有名になった。むろんリオだけでなく、ブラジル全土でカーニバルは行われている。どんな小さい町でもこの期間はカーニバルである(若干日にちをずらすところもあるらしいが)。世界的に報道される部分はその全国的なカーニバルのうちのごく一部なのであるが、しかしあのカーニバル・メイン会場(サプカイ通りと呼ばれ、常設の観覧席が設けられている)でパレードするのはサンビスタの誇りであることは間違いない。

なぜなら、その「サプカイ」でパレードできるのは、ブラジルのサンビスタのうちでも「エスペシアウ」(=special)と呼ばれるリーグに属する名門サンバチームのみなのである。このトップリーグに所属できるのは14〜16チームのみ。そしてそのパレードがコンテスト形式になっていることは日本では知らない人が多いのではなかろうか。
エスペシアウのパレードでは満たさなければならない要件がたくさんあり、生半可なことではないのである。たとえば、「アレゴリア」と呼ばれる装飾山車は8台〜12台も出さなければならない。その一台一台が、大通りいっぱいに拡がる巨大なもので、デザインを凝らし、高さ数メートルある「お立ち台」の上では数人が乗って踊れるようになっている(見ているだけで怖い)。

パーカッション隊も200人以上いなければならないとされる。さらに、アーラと呼ばれる、同じ衣装を着て踊るグループダンサーの固まりがこれまた20〜50単位ぐらいある。それぞれが100人以上のメンバーから成る。そう、全部あわせて・・・3000人から5000人がひとつのチームなのである。

ちなみに、一般に「サンバ」というと思い浮かべるような羽根を背負った露出度の高い衣装を着たダンサーというのは、「パシスタ」と呼ばれ、いわばチームの花形ではあるが、その3〜5000人の中でせいぜい十数人しかいない。実際に見ると、テレビなどで流れるイメージに反して、サンバチームの大半はジジババ・・おっと・・けっこうな高齢者の方々によって構成されているのだという印象なのである。

先に述べた「バイアーナ」という、スカートが膨らんだロングドレスを着て踊る一団はその筆頭だ。ベテラン女性が担当する。サンバの発祥の地であるバイーア地方(ブラジル北東部の海岸沿い)に敬意を表して、その地方の民族衣装を着て踊る設定だ。バイアーナの女性たちもチームに貢献してきた、尊敬されるべきオバさまたちの一団なのである。

打楽器隊などは練習も厳しく、パレード中も基本的にはキビしい顔つきで真剣に叩いている。ヘタくそだとすぐにクビになってしまうのだ。

そういう3〜5000人のカタマリがいったい何をしているかというと、無秩序に踊っているわけではなく、その年毎に決められた「テーマ」にしたがって、いわば壮大なオペラのごとく、あるストーリーを表現するべくパレードをしているのである。テーマはブラジルの歴史や有名な人や、一般的に社会現象、自然、抽象的なものなど、なんでもあり。同じ衣装を着ている「アーラ」も、もちろんテーマに沿った要素の一つを表している。だからひとつひとつの衣装のデザインは凝りに凝ったものだ。装飾山車アレゴリアも同じく。そして打楽器隊は、ストーリーを歌う「サンバ・ヂ・エンヘード」と呼ばれるテーマ曲を演奏しているのである。意外に知らない人が多いが(私としては悔しいことに)、もちろん歌手もいる。ただしリオでは管楽器の使用は禁止されている(他の地域では必ずしもその限りではない)。歌手はカヴァキーニョという弦楽器が弾くコードにあわせて歌うのである。

パレードは専門の審査員によって10項目について採点され、順位が決まる。リーグ最下位になると大変である。下のリーグに落とされてしまう。代わりに下のリーグから上位のチームがあがってくる。サッカーのリーグのようなシステムなのである。だからチームの名誉をかけて、半端じゃない取り組みがなされる。一般のメンバーはわりに直前になってから集中して練習をするようだが、テーマの決定、筋書きの構成、衣装やアレゴリアのデザイン、テーマ曲の作成などはまさに1年がかり、その年のカーニバルが終わるか終わらないかのうちに翌年の活動が始まるのだ。
チームというのは基本的には地域コミュニティのようなものである。とりわけ黒人層にとっては、ブラジル人というよりもそのチーム(エスコーラ=学校と呼ばれる)に生まれ育った、という意識が強いくらいだ。たとえば名門中の名門である「マンゲイラ」というエスコーラのメンバーはその名もマンゲイラという地区の住民たちだが、マンゲレンセ(マンゲイラ人)として生まれ、育ち、死んでいくのである。子供の教育や才能のあるものの職業訓練などもエスコーラの手によってなされる。「愛国心」を持って育つマンゲレンセたちにとってはもちろん、「自分の国」がカーニバルで勝つか負けるかは大問題なのである。
さて、こんなふうに、ブラジルのカーニバルは単なる「お祭り騒ぎ」以上のものであり、詳しく知れば知るほど興味は尽きない。上記は概説だが、今後、パレードやサンバチームのことについてもっと詳しくご紹介していきたいと思う。

↓↓2008年カーニバル マンゲイラのパレード

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