おおゆみこ初めてRIOへ行く 〜1〜

<ベッチ・カルヴァーリョと共演!!?>
さて,旅行記であるから,成田を出発してから云々かんぬん,RIOへ到着してああしたこうした,と書くべきところであろうが,あまりの興奮に待ちきれないので,とにかく,この旅行のハイライト,いや,私の人生のハイライトといってもいい・・・いやそれはちと言い過ぎだが,出来事についていきなり書いてしまおう。

それは,じゃーん,サンバ界の美空ひばり? いやとにかく大物中の大物と言っていい「ベッチ・カルバーリョ」と同じステージに立って一緒にマイク持って歌ってしまった,ってことである。ベッチは日本に来たことがなく,「来日していない最後の大物」と言われている。だから,そもそも「生」ベッチを見,歌声を聞くだけでも感涙ものなのである。
リオでも数年前までは「サンバ」は下火で,バイーア系の音楽やロックに影響を多く受けたもの,またいわゆる「今風」のパゴージばかりだった,とリオ在住の人は言うが,最近はまた「息を吹き返してきた」らしい。まさに「サンバは苦しんでも死なず」である。今回は全面的に「おまかせ」モードだった私が,星さんパウロさん夫妻に連れていってもらったのは,そういう「古き佳き」サンバ,まさに我がバンド「あすふろ(As Flores de Amanha~)」がやっているようなサンバをやるライブだった。これまた意外に思われる方も多いかもしれないが,私はそうはいってもサンバのアーティストなどについてはからきし無知である。そんな無知な私には「ノカ・ダ・ポルテーラ」と言われても「それ何?」てなもんだったのだが,「ポルテーラ」と名が付いているからには「どサンバ」だろう,と喜んで連れて行かれたのである。ショーは居酒屋に毛が生えた風の気楽なライブハウスで行われ,私たちはまさに出演者に触れられるくらいのかぶりつきのテーブルに案内された。

 新聞のショーの情報欄には,そのノカとやらのショーに「今日はパウリーニョ・ダ・ヴィオーラ,明日はベッチ・カルバーリョがゲスト」として来る,と書いてあったのだった。え?パウリーニョ?ベッチ? さすがの私もそれは知っているぞ,それどころかベッチはサンバを始めたときからの我がアイドルである。「でも書いてあることはあてにならないのよね」と星さん。・・・・たしかに当てにならず,パウリーニョは現れず,パウリーニョの「娘」が現れたのだった。

顔こそパウリーニョに似ているこの娘は,若くてすらりとしてキレイだけどサンバのウタはへたくそであった。星さんが「下手ね〜〜」とささやく。「ま,愛嬌でしょ」と言った私も次第に頭を抱えたくなるくらいへたくそだった。じゃあ明日は「ベッチの息子」とかが来たりして,と言ってたのだが,ノカ・ダ・ポルテーラ(この人が歌手であり,そのショーだったのだ・・北島三郎みたいなおっちゃんやな,と思っていたが,実はそれなりの大物であったことを私は後に知ることになる・・それは後述)が,ステージからしきりに「明日はベッチが来るよ〜,ベッチだよ〜〜」と何度も言うので,さすがにそれなら本当に来るのだろう,と思い,その時点で私は星さん夫妻に懇願して,もういちどこのショーに連れてきてもらうことにしたのだった。

パウリーニョ・ダ・ヴィオーラの娘エリアンナ。パウリーニョに似て美人。
でも私のお目当ては7弦ギターのジョジマールさん(後方)。→


 ところでリオでは私は「ガイジン」であるから,この際その「特権」を利用しない手はない。ノカのショーで7弦ギターを弾いていたお兄さんが超かっこよくて(ハンサムというのではないが,インテリヂェンチな雰囲気なのである),その人と話がしたい,とずうずうしくもボーイに頼んでわざわざ呼んできてもらったのである。用意していった特製の名刺を渡して,自分は日本のカントーラで,サンバを歌っているのだ,と自己紹介する。私のパートナーも日本では珍しい7弦ギター弾きであるのだが,あなたの演奏は素晴らしかった!などとつたないポルトゲスで話していたら,ノカのおっちゃんもやってきて,別にそこまでは意図していたわけでもないが,まんまと顔をつないだのである。
 

 そして翌日。ボーイは同じかぶりつきの席をとっておいてくれた。ショーが始まってしばらくして,出てきました,ベッチ。「おお!生ベッチだ!」感涙(T-T)(T-T)(T-T)(T-T)。ひところ枯れ果ててしまってもうだめかと危ぶまれた歌声が完全復活,どころか以前より良くなっている気さえする。しかし彼女が最初に何を歌ったかは興奮のあまり忘れてしまった,なぜなら,次に歌った「カシキアンド」で,ノカのおっちゃんが私を早くもステージに手招きしてくれたからである。そうなるかもしれないよ,と星さんに言われていたのだが,まさかこんなところで。でも躊躇している場合か?いや,とんでもない!私だってカシキアンドは大好きだし大得意だ! もう私は恥も外聞も放り投げてステージに上がりましたよ。日本のカントーラだい!「日出ずる国のジャメロン」だい!(これについてはまた別に書く)。ノカは私にマイクを渡してくれる。歌いましたよ,思い切り。ベッチははじめ,「??」という顔で私を見たが,次の瞬間「BOM(GOOD)!」という顔で親指を立ててくれ,自分が歌うのを止めて私にソロを取らせたりまでしてくれた。そしてウタが終わると,ノカとベッチと私と3人で抱擁しあい,頬にキスしあい,「見るだけでも夢」だったベッチに触れてしまったのであった。

 

 
 ベッチはそれで一旦引っ込んだけれど,ノカのショー自体が終わってからアンコールとして出てきて数曲また歌い,最後にはまた私はステージに呼んでもらって「マンゲイラ94」(合同バツカーダもといサンバサミットで歌ったミレバケヴォー,ってやつ)を一緒に歌ったのである。
 ショーが完全に終わってから,何人ものお客さんに私は握手を求められ「パラベンス!(良かったよ!)」と言ってもらったのだった。なんという幸せ。なんという喜び。
 帰国してから,なにげなく「カシキアンド」の歌詞カードをみた私は,再び驚愕(いやそれに今さら驚愕するという無知さ加減が驚きなのだが)。「作曲:ノカ・ダ・ポルテーラ」と書いてある。ひええええ。「ノカのおっちゃん」はカシキアンドの作曲者だったのか! するてえと私は,作曲者の前で歌ってしまったのか! うわあああ。 ああ,あのときちゃんとそれを知っていればなあ。お世辞でなく,私も大好きだし,日本のサンビスタもみんなこの曲が大好きだってことを言ってくれば良かった。でも,一介の日本の観光客が自分の曲を原語で完璧に(とはゆわないが)覚えて歌ってしまう,ということ自体はノカさんにとってきっと嬉しい驚きだったはず,と私は勝手に思っている。


 それにしても。リオでは,そんな出来事もたいしたことではない,くらい,もともとミュージシャンとお客さんの距離が近い,という印象を私は強く持った。そのことについてはまた項を改めて書くことにする。

      
                      <サンバゲートへ>