96/11/16
長旅を経てサルバドールに到着。早速ペロウリーニョへ。
丁度ラスタカラーのスルドを 持った兄ちゃんが歩いていたのでついて行く。
Olodumの練習だ。 滅茶苦茶かっこいい。50人弱位だろうか、非常に大きく、強い音だ。打楽器だけの本当に練習らしい練習なので 踊ったりせずじっくりと見てみる。ヂレトールは3人が交代でやっている(ネギーニョ・ ド・サンバはもういない)。かなり体育会風で、間違えた奴はガンガン怒鳴りつける。だが、叱られるほうもかなり悪そうな奴らなので、余りこたえてはいないようだ。
Olodum といえど、覚えの悪い奴は覚えが悪い。たまにヂレトールが見本を叩くが、さすがに上手く、力強い。暫く練習した後、パレードして行ってしまった。サルバドールはとても坂道 が多いのだが(ポルトガル人の趣味だろうか)、強烈な坂道を踊りながらスルドなんかを 叩きつつ昇っていく姿をみて、彼等のパワーに感服してしまった。
夜、コンサートに出掛ける。マルシア・フレイレ、カルリーニョス・ブラウン、アザ・シ・アギャの3組が出る野外コンサートだ。小雨が降ったり止んだりしていたためか、客は少ない。まずはマルシアさん。悪くないといった感じ。
途中、ゲストでジェラ・サンバ のダンサー、カーラが登場する。
彼女は今やブラジルのセックス・シンボルらしく、急に男性客が前のほうにゾロゾロと寄ってくる。
他人の曲のため、振り付けは余り覚えていない様だが馬鹿でかいケツがあたかも別の生き物の様に(丁度ド根性ガエルのピョン吉の様)に自発的に跳ね回る様は圧巻であった。曲が終わり、彼女が引っ込むと男性客達も後ろへ戻っていった。さて、お目当てのカルリーニョス・ブラウン(以下、C.B.)の登場である。ラジコン・ヘリコプターがステージ前方を低空飛行するという謎の演出と共にショウは始まった。
ソロアルバムの曲に他人に提供した曲を降り混ぜて進んでいったが、正直いってつまらなかった。バンドの演奏は大味で、パッとしない印象。C.B.氏はギターをかき鳴らしたり、マイクを持って走り回ったりしていたが、いま一つカッコ良くない。歌も大雑把な感じ。メンバーに長々と(退屈な)ソロをとらせたりして、客も完全に引いてしまった。
しかし、ティンバレスを叩き出した瞬間、全ては変わった。物凄い勢いで叩きまくる彼の姿は、強力な磁力で人々の目を引き付けた。本当に格好良く、ぼくも急に興奮してきたのだが、それも束の間、C.B.氏は激しすぎるスティックさばきでマイクを跳ね飛ばしてしまい、しばらくモタモタした後、叩くのを止めてしまった。結局、僕が楽しめたのはその一瞬だけだった。
彼のステージが終わると、もう午前3時をまわっていたので、アザ・ジ・アギャは見ないで帰って寝た。
96/11/17
今日はチンバラーダのショウがある。彼等の新しい本拠地"Candyall Guetho Square"のopen記念ライブだ。カルリーニョスも出るという。午後5時から、50曲やるという話だ 。ちょっと遅れて行ってみると、結構田舎っぽい(かなりアフリカっぽい)ところにある。コンサートは素晴しかった!ステージ上にはパーカッションだけで40人位、総勢50人程いる。しかも、小物からスルドまで(勿論親分C.B.も)打楽器は全て生音!僕はP.A.の音が嫌いなのでこれは本当に嬉しかった。
C.B.氏も昨日とは打って変わって格好良く見える。新作からの曲も沢山やり、非常に盛り上げる。シコ・セーザルやジルベルト・ジルのカバーなんかもやっていた。もう、本当にかっこよくて大満足だったのだが、さらに素晴しいことに、ゲスト(何人か出てた)の一人として、あのネギーニョ・ド・サンバが出てきた!ステージに上がり、メンバーらと抱きあったりしたあと、彼のティンバレスと共 にサンバヘギ(しらない曲だった)が始まる。昨日のC.B.とはまた違う格好良さの割とゆったりしたスティックさばきだ。
暫く叩いた後、前へでてジレトールをつとめる。とにかく興奮しすぎて何が何だか良く覚えていないが、とりあえず写真は撮った。大編成チンバラーダとカルリーニョス・ブラウンとネギーニョ・ド・サンバ。何たる幸せ。本当に来て良かったと思いつつ、帰る。
96/11/19
ペロウリーニョへOlodumのショウを見にいく。やはり打楽器は30〜40人で生音。打楽器隊は客席というかフロアーにいるため間近で聴ける。物凄い迫力だ。生で聴くオロドゥンは本当に、本当に格好いい。
客はオロドゥン振り付け隊のリードの元、バッチリ決まった振り付けで踊り狂いつつ大合唱している。打楽器隊(特にスルド)の踊りもバッチリ決まっている。ボブ・マーリーのカヴァーなんかもやりつつたっぷり盛り上がる。たっぷり楽しんで帰路に就く。外へ出て見ると、別の所からサンバヘギが聞こえる。行って見ると道端で子供達が演奏している。
まさか、と思って見てみるとプレーゴ先生の姿が!数年前、NHKの旅もの番組で取り上げられていた子供サンバヘギ・バンド、「ミニーノス・ド・ペロー」だ!ガキとはいえかなり上手い。
プレーゴ先生はテレビで見ていたとおりの、とても人の良さそうな方だ。まさか、この人達と遭えるとは、やっぱり来た甲斐があったなあと思いつつ帰る。今日はパーカッション教室があるというので友人の仁尾君と共に出掛ける。仁尾君というのは大学時代の友人で、現在サルバドールに留学中。で、仁尾の友人のエジウソン君がそのパーカッション教室に連れて行ってくれるというのだ。
待ち合わせ場所のペロウリーニョに着くと何やらサンバヘギが聞こえてくる。ジダーのパレードだ。ジダーというのは女版オロドゥンで、結構格好良い。続いてやってきたのはオロドゥンだ。女性グループの後に聴くと彼らの男っぽさが一層際だつ。物凄い迫力だ。待ち合わせは置いといて彼らの後に着いて行く。
石畳の上で建物に囲まれた細い路地で彼らの演奏を聴いていると、音というのは物だと思えてくる。体全体が周りからギュッと押されるような強力な音圧だ。もうこうなると「聴く」とか「踊る」とかいう感じではない。ただただ轟音に身を委ね快感に浸る。オロドゥンの歌で、
『「遅れていく」って言っておいてくれ。俺はもう少しオロドゥンと一緒にいて幸せを感じていくよ』
という歌があったが、まさにそれと同じ気持ちでエジウソン君の事は後回しにしてオロドゥンに見入る。
ところで、サルバドールの黒人は意外とストレートパーマなんかをかけてる人が多いのだが、ペロウリーニョ、特にオロドゥンが何かやるときにはドレッドやら編み込みやら「Black Beauty」っぽい人が多く見られる気がする。そして何より強く感じるのは、Olodumはペロウリーニョの物だという事だ。
ペロウリーニョの、ただのゴロツキになっていたかもしれない若者達が誇りを持って演奏する音楽だ。うーん、説明は難しいが、兎に角、地域との結び付きがとても強い土着的ポップミュージックだと思った。で、いつの間にかエジウソン君が現れ、絵の展覧会に連れていかれる。こういった催し物の初日は決まってタダ酒が出るらしく、それ目当ての奴等が沢山やってきている。
結局ここでゆっくりしすぎたため、パーカッション教室には間に合わなくなってしまったのだが、ここで何気なく撮られた写真が後に地元の新聞に載る事となったのだった。
96/11/21
仁尾と一緒にチンバラーダの本拠地、カンヂアルへ行く。ここには先々月号に書いた彼らのライブ会場、「カンヂアル・ゲットー・スクエア」があるので、それを覗きがてらこののどかな町を見に来たのだ。いきなり子供たちが駆け寄ってきて「写真とってー」と、実に元気いっぱいのいい笑顔で口々に叫ぶ。とてもアフリカっぽくて良い感じだ。チンバラーダのライブ会場の近くに行くと、一軒の家の中からチンバラーダの練習の音が聞こえてくる。指をくわえて聴いていると「中に入っていいぞ」といわれたので、喜んでの中にはいる。
入ってみると、コンクリート打ちっぱなしの部屋の中で上半身裸の男たちが40人くらい叩きまくっている。かっこいい。チンバウの「パカパカ」という響きが気持ちいい。一時間ほどたっぷり楽しんだ所で練習は終わった。
「明日もやるから見に来い」
と言われたので明日も行くことにする。
96/11/22
今日は仁尾は仕事があるので、一人でカンジアルへ行く。再び昨日の子供たちに写真をせがまれ、何枚か撮ってあげる。後は迷わずチンバラーダの練習場へ向かう。練習は打楽器のみで、メロディー楽器も歌もなし。冷房どころか扇風機もない部屋で、水しか飲まずに一生懸命練習をしている。
ちょうど彼らの新譜が出た翌日だったので、誰かが持ってきたそのCDを皆で回し見ている。しかし、一見したところ彼らの多くはCDプレイヤーを持ってなさそうに見える。ところで、このカンジアルという所は、現在道路を舗装中の所が多いのだが、それは先述の『カンジアル・ゲットー・スクエア」に負うところが大きいと思われる(『ゲットー・スクエア』近辺を中心に工事を行っているようだった)のだが、この施設は殆どカルリーニョス個人の出資で建てられたらしい。
大枚はたいて楽器をそろえてチンバラーダを結成し、さらにライブ会場まで作って地元を盛り上げていくカルリーニョスという人は、なんて志の高い人なんだろう。チンバラーダの人気ならもっと都心にライブハウスを持つことも出来たろうに、あえて地元にこだわり都心の人々を自分達の方に呼び寄せ、街自体を活性化させてしまうという壮挙。Olodumとペロウリーニョにしてもそうだが、今回の旅行では、音楽と地元の結び付きというのがとても気になったし、羨ましく思えた。サルバドール...素晴らしいところだ。