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サンバ化日記
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おーゆみこの サンバ化日記    2004年4月号     illust image
〜文化のゆりかご??〜

●私が住んでいる西荻窪という街は「変わっている」と言われる中央線沿線の中でもとりわけ変わっている、ということになっている。その名も「中央線の呪い」さらにその続編として「中央線なヒト」というエッセイ集(三善里沙子著)がロングセラーとして今でもけっこう売れているようだが(文庫本化もしている)、その中でも高円寺・阿佐ヶ谷・西荻窪(なぜか3つとも、土日には快速が止まらない、という共通点がある)は、中央線の妙ちきりんなエッセンスが吹き溜まりとなっている「ディープ中央線」と呼ばれている。 中央線沿線の町々がどんなふうに「変わっているか」について詳しくはその本自身に譲るとして、「ディープ」な西荻の中でもひときわディープなスポットをご紹介?しよう。

●「美華」(びか)というラーメン屋である。入り口の外に出す照明看板はごく普通のもので「中華 美華」と書かれているし、支那そば、と書かれた(いいのかしら)大きなのぼりも立てられている。 でもここでラーメンにありつくのはけっこう難しいのだ。 小さなビルの2階全部が店のスペースだが、道路側の2面はすべてガラス窓で、アコーディオンカーテン風になっていて全面開放することもできる。季候のいいときは実に気分がいい。 そして店の中には、分厚い白木の巨大テーブルがどーーんと。そこですでに、普通の「ラーメン屋」のイメージとかけ離れている。おしゃれなペンションの共有ダイニングルームのようでもある。とはいえ、実際には「おっしゃれー」な雰囲気ではない。全体的には「第三世界」っぽい。東南アジアの路地裏の食堂のようでもある。 ま、見た目の雰囲気はともあれ。客はその巨大テーブルの周りに適当に座ってくつろぐわけである。

●人に連れられて初めて行って、その後しばらくは行くたびに目が点だった。 お風呂上がりで髪の毛も濡れたままのお姉さんが(けっこう美人)Tシャツにノーブラでやってきて、「どもー」と言いながら、勝手に冷蔵庫からワインを出して飲んでいる。さっきまで客として飲んでいたハズの年配の会計士Wさんが、いつのまにか厨房でなにか自分で作っている。マスターは「ゆきちゃん」と呼ばれる50代後半の男性であるが、夜も遅くなると自ら飲んだくれて「使い物にならない」のである。いつもベンツを運転してやってくる金持ちの主婦Mさんが「また寝ちゃったゆきちゃん」と苦笑しながら、やはり厨房でボランティアでお皿を洗っていたりする。

●つまり彼らは「常連さん」なのではあるが、この店ではほとんどの客がそういう存在なのである。全く新しく来た人であっても、くだんの大テーブルの周りに座ると、いつのまにやら他のお客さんと言葉を交わし、話が盛り上がり、とにかくいつでも、大テーブルの周りに座った人たち全員がグループ、みたいな形になっている。 しかもこの店にはメニューの存在も「幻」である。昼間に行くとあるらしい、と「噂に聞く」が、見たことがない。テーブルに座れば、ゆきちゃんが何か適当に出してくれる。ゆきちゃんがノリノリであるときは、すんばらしくオイシイ料理がふんだんに出てきたりするが、そうそうに酔っぱらってしまうと「なんかおいしいもん作るよ〜〜」と口では言っているがなかなか実行されなかったりもする。 あるいは、常連さんたちと「筍掘り」に行った、釣りに行った、となればその「成果」が当然供される。飲んだくれでも腕は確かで、料理にはハズレがない。 飲み物は、基本的に自分で勝手にサーバーからついだり冷蔵庫から出したりして飲む。 で、会計は? どんぶり、である。ゆきちゃんが「人を見て」決めているように見える。理不尽なことを言われたことはない。むしろ「それでいいの?」てな額である。大勢がいて(例によって基本的には別々のグループの人たち)遅くまで和気あいあいとしていて、じゃそろそろ帰ろうか、とみんな一斉に去るようなときは 「じゃ、男性3000円、女性は2000円ね」 ・・・・まるでコンパである。

●ようするに、この店は「ラーメン屋」のふりをしているけれど、実は「コミュニティサロン」なのだ。 だからときどき「イベント」もある。私自身も何回も「ライブ」をやらせてもらっているが、「ベリーダンスのショー」とか「そばうち会」とか、他にもいろいろ、ゆきちゃんの興が乗ると様々なことが起こる。 ここのところ数ヶ月、月に1度、そこで太田丸主宰のショーロの会(ホーダ・ジ・ショーロ→セッションのようなもの)の分科会(?)をやっている。ゆきちゃんは、別に自分が音楽をやる人ではないし、実際にそれほど詳しいわけでもないのだが、ライブの音楽を聞くのが大好きだ。常連の中にはミュージシャンも多いのだが、有名無名問わず(有名どころではサックスの梅津和時氏、「たま」のメンバーなど)がやってくるとゆきちゃんはますます上機嫌になって、演奏をせがむのだ。 そんなゆきちゃんであるから、太田丸がショーロのセッション風の会をやりたいと言ったら大喜び。別にライブと銘打ったもののではなく、基本的に内輪の「飲み会」なのであるが、楽器を持てば飲食そっちのけになってしまう人も多く(私はたいがい飲食圧倒的優先派であるが)、とにかくずーーーっと演奏している。貸し切りにしているわけではないので、他のお客さんも来る。他のお客さんは、自分たちで勝手にしゃべくったり、飲んだり食べたり、まあ適当にやっているが、ライブの音楽は嫌ではないようで、曲が終わると「おおー、いいねえ!」と拍手してくれる。 いささか呆れてしまうが、3月のときは、夜8時頃から始めて12時頃までずーっとショーロを演奏しっぱなし。それで終わりかと思いきや、今度はなぜかサンバセッションになってしまい、なんと朝の4時まで! 都合8時間も演奏し続けていたわけである。4月の会の時は、さすがに朝までやると迷惑かもしれないから、早く始めて早めに自粛しよう、と事前に言っていたのに、7時頃から始め、12時過ぎにまた新たなメンバーがやってきたため、結局またもや4時であった。

●これまでそんなふうに3回、それを実施していたが、毎回覗きに来る「他の」お客さんがいる。写真家のR氏は、2月の第1回目の時は、酔っぱらっていろいろクダをまいているのに、みんな演奏に夢中になってだーれも相手にしてくれず、そのうち 「わかった!きみらの音楽は、自分だけ幸せな音楽なんだ!」 とスネていきなり爆弾発言をして一瞬我々を凍らせたが、なんのかんのといって3月にもわざわざやってきて、4月もやはりやってきて、こんどはなぜか曲が終わるたび上機嫌で大拍手、
「いや〜〜、人間って、いいねえ!人間って、すばらしい!」
とご満悦であった。 もうひとり、ものすごく喜んで我々の演奏を聴いていてくれた若い女性Mさんは、あまりにノリノリな人に見えたので私のまだ知らない常連の方だろう思いこんでいたのだが、聞いてみると、友人に連れられて初めて来たとのこと。なのにその友人が帰ってしまってもひとり残って興奮していた。その後メールをもらったが、
「西荻の怪しい中華屋での "きつねにつままれっぱなし"のひと時は、ヒキコモリ気味の昨今の私には度が強く、サワー?も、マスターも、来る客も、皆さんの演奏も すばらし過ぎて 度が強く・・・かなり酔っぱらってしまい 失礼しました。  これが、ディープな西荻ってヤツかぁー あぁでなくちゃ文化は育たないよなぁー とか痛感した次第です」と書いてあった。また同じ回をやる時は絶対に来る、とも。

●まあ、「手前味噌」なのは百も承知で言えば、そうなのである、こうやって文化は育っていくのだ! ふと、そういえば「酒を飲んで歌ったり踊ったりするのはケシカラン」という誰かの苦情?を受けて恒例の古民家囲炉裏端ナベパゴが今年はできなくなってしまったんだっけなあ、なぞということを思い出す・・・・・。 去年の6月に1ヶ月半ほどブラジルに行って、すっかりブラジル人化して(もともとその傾向が強かっただけに)帰ってきた太田丸は、帰国後もなにかというと「あ〜あ・・・ブラジルではこうだったのに・・」と日本と比べてはため息をつくウザッタイ奴になっていたのだが、ヤツが「ここだけがブラジルみたいだ・・・」と遠い目をして言ったのは、サッシやオンゼではなく、この西荻の怪しいラーメン屋美華なのであった。

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