1999年10月3日(日) 練習レポート

浅草カーニバルが終わる前から,もういろいろとミーティングを重ね,やっとこの秋からの活動の方針がはっきりしてきたようだ。いわばオフシーズン練習の初日とも言えるこの日の練習はなかなかに画期的だった。

 午前中はそれぞれのパートが基本練習をする。バテリア(打楽器隊)も,前回から始まったパートごとの基礎練習がなかなか盛況である。お休みの日の午前10時からだというのに,15人ぐらいはいるだろうか(1パートだけなのに)。今日はヘピニキとタンボリンの練習。せまいスタジオにひしめきあってではあるが,丁寧な基本練習に充実感がある。そのころ2階の大ホールではダンスの基礎練習。前半は柔軟から始まって,基礎中の基礎のウォーキングや基本ステップ練習。後半はやや趣向を変え,ガフィエラ(サンバのペアダンス)のレッスン。このときは有志が演奏も担当する。ダンス練習の伴奏,とはいえ,この演奏も重要な活動要素の一つ。いつものような大きな集団での演奏でなく,少人数でのユニットでおのおのがお気に入りの曲を演奏する。上手い下手は問わず,やる気のある人なら参加OKのユニットだ。あまりに下手だとダンス練習には気の毒? いやいや,味気ないCDでの練習より生演奏の方が空気も和やかで,ダンス初心者の緊張も薄れるかのようだ。


 さて,昼休みには例によって威勢のいいサンバヘギが展開される。サンバとはまた違うが,やはり体が自然に動いてしまう迫力のあるリズムに酔う

 午後からは,なにげなく打楽器演奏が始まってしまう。ジレトール(打楽器指揮者)の指示によっていろいろなパターンが展開してゆく。オフシーズンなので,今までやったことのない楽器に挑戦するものもあり,また午前中の成果を見せようとガンバルものもあり。新ジレトールの稲葉氏の方針で,そうやって出入り自由な形で延々と演奏を続け,その間には初心者や不慣れな人に先輩格の奏者がこまめにアドバイスをしたりしている。
 さてダンサーはというと,せっかくある大きな鏡にカーテンを掛けてしまい,打楽器隊に対面するような形で並んで基本ステップの練習をしている。ダンスは自分に見せるわけじゃない!ということで,あえてそうしたのだそうだ。床に白いビニールテープで線が引いてある。その線に沿って横一列に並んで練習している。数が多い!壮観と言っていい。

 短い休憩を挟んで「うたの時間」。サンバは,実は「うた」なのである。世間では非常に誤解されているが・・つまり世間ではサンバといえば,まずダンス。打楽器の演奏を思い起こしてもらえれば万々歳。歌や弦楽器の存在を知っている人がどれだけいるだろうか? 筆者おおゆみこは歌手であるが,非サンバ人の友人にいっくら「歌っているんだ」と言っても,挨拶は決まって「どう,まだ踊ってるの?」である(T-T)(T-T)(T-T)(T-T)(T-T)。
しかし,あにはからんや,実はサンバには「まず歌ありき」なのであった。いかなる動機でサンバチームに入ってきた人でも,日頃,仲間が集まっては,みんなで歌って楽しんでいる様子を見ていれば,自分も歌えるようになりたいと思うのが自然。しかし当然ながらサンバの歌は基本的にはブラジルの言葉(=ポルトガル語)で歌われる。なかなかなじみがない言葉では歌いたくても思うようにはいかない。というわけで,リベルダージではみんなが歌になじんで一緒に歌えるレパートリーを増やすべく,「お歌の時間」を設けているのである。簡単には読みにくいポルトガル語も,ひらがなで大きな紙に書いて掲示する。少しばかり意味なんかも説明する。それであとはひたすら一緒に歌う!のである。そうして,宴会の時などにみんなで歌える曲がどんどん増えていくという寸法。
この日は「詩人の涙」と「11時の夜汽車」という邦題のついた有名曲をとりあげた。しばらくサンバ界に出入りすれば自然と耳にするような曲ばかりである(ちなみにリベルダージ会員には「愛唱歌集」と名付けたテープを配布していて,この時間に取り上げるのは原則としてそのテープからの曲である)。僭越ながら私おおゆみこが「指導」みたいなことをする。といっても何回か繰り返して歌うだけなのであるが・・しかしそのうちに,おおゆみこがマイクで歌わなくとも,ホール中に歌声が響き渡るようになる。感動的な時間である。

 歌が終わると,この日の練習の集大成とも言える「総合練習」に入る。ここで私は不覚にも感動してしまったのだが,初の試み,ということで,ダンサーたちがあらかじめホールの片側に寄り,何人かずつ順繰りに,打楽器隊のいる方に向かって踊りながら近づいてゆき,そこで思い切りアピールしながら踊る!ということをやりはじめた。ダンサーたちに向かって打楽器軍団もとびきりの笑顔と,気持ちのいいリズムで応える。
 サンバとは,打楽器もダンスも一体となって創る「場」である・・・とリベルダージではもともと理念をもって,新入会員用の案内資料にもそう書いてある。パレードなどではそれが実感できるが,普段の練習では必ずしもいつもそういうわけにはいかなかった。しかし,見よ!目の前で展開されている光景はまさしくそれである。
 打楽器の人は手と楽器を中心として,ダンサーの人は足を中心として,それぞれが体全体で,サンバを文字通り「体現」する。それはひとりで行うのではなく,多くの人々が,それぞれのエネルギーをそれぞれに与えあい,引き出しあって,大きなうねりを創る。サンバは「ダンス」とだけカテゴライズされるのではなく,「音楽」としてだけでもなく,それらが合体してまきおこされる
現象であるそれは別に「芸術」なわけでもない。鑑賞されるような対象でもない。サンバは参加するもの,わき起こる現象・・・なんと表現したらいいのか分からないが,この日の練習風景に,私は13年前に感じたが今は薄れていた,あの圧倒的にワクワクする,いのちが喜ぶ!ような幸せを思い出した。この練習方法は,前日の土曜日にダンサーたちの代表が寄り集まって,6時間も議論を続けた成果なのだそうだ。素晴らしい! 私は手放しで賞賛してしまう。
最後に今年の私たちのサンバ・ヂ・エンヘード(テーマ曲)を歌い叩き踊り,大団円!お疲れさまでした〜〜〜〜!

 練習後は来年の浅草のテーマなどについてのブレーンストーミングが2時間。(まだテーマは決まらない!)そして場所を移して,あらかじめ予約しておいた十条駅近くの居酒屋「田や」の2階座敷へ。ここでもブレーンストーミングを続ける予定・・・・が,やっぱり飲んでしまうとだめですね(^_^;)。 しかも貸し切りの座敷。 やっぱり始まっちゃった。 そう,弾いて歌って踊って・・・・。まあいいや。みんな笑顔だ。やぼは言うまい。
 こうして,朝もはよから,夜遅くまで,みっちりと中身の詰まった幸せな時間をまた味わってしまったのであった。また来週の所沢パレードでも,そしてその次の週末の練習でも,その次でも・・・ずーーっとこんな幸せが味わえるんだなあ。サンバをやってない人々が気の毒に思えてしまう(?)くらい,サンバに出会った(それも,手前味噌だがリベルダージで・・)自分の幸運に感謝する私であった。